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「お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞ! ……ま、お菓子をくれてもイタズラするけどねっ」
満月の夜。暗闇を照らす月光を浴びる“それ”は塀の上に立ち、外套をはためかせながら笑い声を上げた。警備に当たっていた屈強な男達は塀を見上げて悔しげに表情を歪ませる。
男達が見上げるのはジャック・オー・ランタンのお面を被った正体不明の人物――通称・ハロウィンの怪人。予告状を出した貴族から貴金属の類いを盗み、変わりに成功の証としてお菓子をぶちまけて去っていく。
ハロウィンの怪人とは言うものの、その犯行日時に規則性はなく白昼堂々盗みに入ることもあった。ハロウィンの怪人と呼ばれる所以は先ほど叫んだその台詞にある。
屋根から屋根へと飛び移れるほどの高い身体能力により警察は何度も出し抜かれ、いつも取り逃がしてしまい未だに正体は掴めていない。
「やぁやぁ皆さん、今宵もお疲れさまでしたね!」
男達がハロウィンの怪人を捕まえようと一歩動き出した瞬間、ハロウィンの怪人はそう高らかに叫んでお菓子が詰め込まれた小袋を数えきれないほどばらまいた。
「それではまた!」
男達はハロウィンの怪人が笑い声と共に忽然と闇夜に消えていくのを眺めるだけ。
物陰からこっそりと姿を表した少年はハロウィンの怪人を追いかけていった男達が居なくなるのを確かめて、地面に散らばった小袋を拾い上げる。
「これは……シトルイユのお菓子?」
包み紙に記されたシトルイユのロゴと名前を見つめ、赤毛の少年はお菓子を握りしめた。
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