第1章

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「いーい? ジャクリーン。これも勉強よ? が・ん・ば」  語尾にハートマークがつく勢いでカワイイポーズをされ、ジャクリーンは素直に「すごい」と呟いた。盗賊業から足を洗い、一戦を退いたもののシャーロットを男だと疑う者はいない。長年の習慣と生まれつきの華奢な体格の賜物なのだろう。  地声さえ出さなければまずバレることはない。菓子店にはシャーロット目当ての常連客さえいるほどだった。対するジャクリーンもシャーロットに似て華奢な体つきではあるものの、経験不足ゆえかそそっかしい性格ゆえか危なっかしいものがある。 「三代目ハロウィンの怪人を継ぐ者として! 力の限りニコラスを出し抜いてみせる! お祖父様の名にかけて!」  壁に飾ってある少女――もとい初代ハロウィンの怪人の肖像画を指差すと、ジャクリーンは鼻息荒く宣言してみせた。 「ニコラス君だけど、店先で待ってるから余り待たせちゃダメよ?」  ヒラヒラと手を振りながらシャーロットが出ていくのを見送り、ジャクリーンは頬を叩いて気合いを入れる。本棚の隅に置かれた写真立てをジッと見つめ、深呼吸をした。上半分以上が焼けてしまって顔の判別が出来ないが、写っているのは小さな男の子と女の子。霞がかった記憶に思いを馳せて、ジャクリーンは微笑みを浮かべる。 「よっしゃ! 待ってろよ、ニコラス! 完璧に出し抜いてやる!」  ふははと笑いながら拳を突き上げた瞬間、閉められたドアの向こう側から大きな咳払いが響いた。 「……待ってなさい、ニコラス様。私が完璧に出し抜いてあげますわ」  ドアの向こう側でシャーロットが聞き耳を立てていることを知ったジャクリーンはおーっほっほっほと高らかに笑うと、鏡で自分の格好を確認して部屋を後にする。
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