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赤毛の少年は菓子店の軒先に立ち尽くして、何処までも澄み渡る空を見上げていた。煉瓦造りの道路や店が天上の青を際立たせている。
すらりと長い手足に肩ほどまで伸びる赤毛に、空と同じ青い眼――街の色を全身で表現したかのような姿に、菓子店に入っていく客の女の子達は意識を奪われているかのようだった。
「あの人カッコいいねぇ、彼女待ちかな?」
時折、そんな会話が交わされるものの、少年には聞こえていないからなのか自分のことと思っていないからなのか、全く反応を見せずにズレた眼鏡を正して物憂げなため息を漏らす。
「……すみません、ニコラスさん。お待たせしてしまいましたよね」
慌てた様子でジャクリーンが店のドアを勢い良く開けて現れた。息も絶え絶えなジャクリーンをじっと見つめ、赤毛の少年は深々と頭を下げる。
「こちらこそお忙しい中に無理を言って申し訳ありません」
「ニコラスさん、あ、頭を上げてくださいよ。店長の許可がありますし大丈夫ですから……それにハロウィンの怪人の捜査ですし、協力します」
「……ありがとうございます。助かります」
ジャクリーンが周囲の視線を気にしてオロオロと申し出ると、赤毛の少年――ニコラスは顔を上げて微笑みを浮かべた。真正面からその表情を見てしまったジャクリーンは思わず言葉を失い、すぐに首を振って心を落ち着かせる。
「え、えーっと……ハロウィンの怪人が犯行する度にシトルイユのお菓子がばら蒔かれてるんですよね?」
「はい、理由まではまだわかりませんが。私の調査ではハロウィンの怪人は男性である可能性が高い。再度確認しますが、本当にシトルイユの店員に男性は一人もいないのでしょうか?」
後ろめたさがあるからなのか青い眼だからなのか、ジャクリーンはニコラスが向けてくる視線に冷たさを感じて息を飲んだ。
「はい。店員は全員女性です」
「菓子を大量に買い込む男性客は?」
「店員の私が言うのも変ですが、シトルイユはこの街一番の菓子店です。大量に買い込むお客様は老若男女問わずいらっしゃいます」
ジャクリーンが笑顔で言い切ると、ニコラスは無言で考え込み始める。嘘がバレるとは思っていないが、見破られやしないかとヒヤヒヤする気持ちが表に出ないよう必死に平静を装った。
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