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「ダメだこりゃ。メイン基盤が錆びきってんじゃねーか」
廃材の山にあぐらをかいた女性が、両手に抱えた輝械剣【きかいけん】の持ち手をルーペで検分しながら、呆れたようにそう言った。
「ジグモ。お前これ、客からいくらで買ったんだ、おい?」
ぎろりと鋭い眼光に射すくめられて、意図せず肩がひくつく。
「ええと、二万ギルほどで……」
「はぁ!?」
「えっと、その! 正確には一万八千八百ギル……」
「二千ギルでも元とれねぇってんだよ、このタコ!!」
「あだ!」
カァン! と甲高い金属音と共に視界が揺れた。この人は口と同じくらい手が早い。
「毎度毎度ガラクタばっかり高価買取しやがって。うちはゴミ処理業者じゃねぇっつんだよ」
「で、でもですね! この輝械剣は幻のメーカー、オカダ戦機のオーダーメイドですよ!? メイン回路の作動機構は未だにブラックボックス! 動かなくたって、見る人が見れば十万、いや二十万でも買い手が……」
「ブラックボックスだから修理もできねぇんだろーが! 店の金でテメーのコレクション増やすんじゃねぇ、このアンポンタン!」
「あだっ!?」
カァン! 僕の頭から響く景気の良い金属音が、通りの向こうに広がる広大な海原と無辺の青空に吸い込まれて行った。
彼女はこの海遊都市【かいゆうとし】、『ポセイドン』の外れに小さなジャンク屋を構える女店主で、僕の上司だ。
ラズベリー色の豊かな髪を頭の上で二つに結い上げていて、顔だけ見れば結構な美人には違いないんだけど、いつも油にまみれた灰色のツナギを身に纏っている上に、はだけた胸元にはくたびれたサラシが巻かれている。おまけに、
「この野郎、これ以上雑な買取してみろよ? てめぇの腹かっさばいて中の部品全部売り飛ばしてやっからな?」
「あは、は……」
睨んだだけで猛獣さえ射殺すんじゃないかってくらい鋭い眼光。とにかく僕の上司は中身の方も見た目と違わず粗暴極まりないのである。そんなんだからいい歳して男の一人も見つからないんだ、なんて軽口を叩いたら三発目の拳骨を貰うことになるだろうから、言わないでおくことにするけど。
「リコさん、いるかい?」
「あいよ! 今行く!」
店の方から客の声が響いて来て、応えた彼女、リコさんがよっこらと立ち上がる。
毎度不思議なのが、こんな場末のジャンク屋にも関わらず、この店には『輝械兵団』からの依頼が大く入る。
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