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それも将官クラスのお偉いさんがわざわざ訪ねて来るものだから、就職した当初はかなりおっかなびっくり店番をやったものだ。リコさんの腕が相当いいのか、他の理由があるのかは僕にはまだ、判断がつかないけど。
「とりあえずコイツはテメーが責任持ってバラしとけ」
「うわっ?」
突如、リコさんが無造作に輝械剣を放って寄越した。巨大な刃物が飛来する光景に浮足立って、
「おわあぁっ!?」
瓦礫に足を取られて、廃材の山に頭から突っ込んでしまう。
「ほんっとにお前ぇは、鈍臭ぇな」
呆れた調子で溜め息を吐くリコさんの言葉を、気にしている場合では無く。いてもたってもいられずに、じたばたと藻掻いて上体を起こす。
「ちょっ!? バラしちゃうんですか、こいつ!?」
それはあまりにも勿体無い。この剣の骨董品としての価値は相当なものだ。しかし、
「ったりめぇだタコ。部品にしたって今の規格にゃ合わねぇだろーから、ブレードを溶かして基材にするくれぇしか使い道が無ぇ。ったく……」
二万ギルの利益を出すのにどんだけ……、とか守銭奴じみた悪態を垂れつつ、リコさんが店の裏口からカウンターへと入って行く。
嵐が過ぎ去った後のように、店裏の廃材置き場が静寂を取り戻す。僕は一つ大きくため息を吐きながら、もう一度手に持つ輝械剣を検分した。
刃渡りは八十センチ程度、少し大振りな部類に入る。錆が浮いてはいるものの、黒味がかったゴールドの美しい刀身には複雑に入り組んだ幾筋ものモールドラインが走っており、その中に仕込まれた攻念兵器の出力の高さを物語っている。
きっとこの輝械剣は、かつて勇猛果敢な輝械兵の相棒として、数多のスピロバをその高出力破彩シーケンスのもとに屠【ほふ】って来たに違いない。
いったいどんな持ち主と、どんな死線をくぐりぬけてきたのだろうか。
そうやってまた無為に膨らませる想像は、言いようの無い寂寥感と無力感を連れて来る。胸の奥で残骸と化した夢が、また燻り始めてしまう。
ともすれば僕も今頃そんな輝械兵の一員として、失われた大地に踏み入っていたかもしれないのだ。
いつか、この狭い海遊都市を飛び出してみたかった。かつて人類があらゆる生物の頂点として栄華を極めたという広大無辺の大地と、そこに残っているはずの偉大な文明の痕跡。
それを一度でいいから、この目で見てみたかった。
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