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それはもう遥か昔のこと。
何百年前だったか、あるいは何千年前だったか、今となってはそれさえも定かでないがな。
私はあの日、初めて奴と遭ったのだ。
魔族の尖兵グラン。
天を突く燃えるような真っ赤な髪と、全身から溢れ出す殺気が今でも忘れられぬ。
だが私とて神に連なる者。
その場から一歩たりとも退く訳にはいかなかった。
相手の呼吸に合わせ、互いに虚空を蹴る。
グランの力任せに振る大剣が耳元を掠める。
高速ですれ違った瞬間に私の神槍がグランの左腕を刺し貫いた。だがその程度で倒れるほど奴も甘くはない。
ああ、今でもよく覚えているよ。
轟轟と唸り渦を巻く大気の中で感じたあの息苦しさと緊迫感。そして、決して負けられぬという強い使命感。
その戦いは何年にも及んだ。
互いに多くの血を流した。
七年目、七月の晩。
グランは遂に我に屈した。
互いに立てぬほど疲弊し傷ついていたが、確かに私は勝利したのだ。
神聖なる神々の住まう塔への魔族の侵入を無事に阻止することができたのだ。
だがな。
その戦いは始まりに過ぎなかったのだよ。
グランは幾度となく蘇り、転生を繰り返し、執拗に塔への侵入を試みてきた。
その度に私は、決死の思いでそれを阻んできた。
時を越え、所を変え、刃を交え、知力を尽くし、時として運さえも味方につけ…、何度戦ったのかさえもはや憶えておらぬ。
だがそれも宿命なのだ。
主が、私に与え給うた過酷な宿命なのだ。
そしてこれからも。
グランが神の塔を侵そうとする限り、私はそれに立ち向かわねばならない。
それこそが私の使命なのだから。
という訳でそこの少年よ。
今から私を市営球場まで案内してくれたまえ。
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