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「それはだな…」
少し勿体ぶったような、小悪魔っぽい笑顔を僕に向けてみせ、今度は上空ではなく真正面に続く通りの先へと手を伸ばすリリィさん。
そしてまたしても、そろそろ通報されてもおかしくないレベルの大声で叫んだ。
「ハトよ。我を市営球場まで導け!」
チラチラと向けられる通行人たちからの冷たい視線に耐えつつ様子を見ていると、ハトはまた「くるっくー」と可愛らしく鳴きながらリリィさんの肩からふわりと飛び立った。
そのまま、僕たち二人を先導するかのようにゆっくりと、そしてまっすぐに市営球場の方角へと飛んでいく。
「どうだ少年。あとはハトが我々を市営球場まで導いてくれる。さぁ、後を追うぞ」
「そうですか。だとしたら、僕の存在意義って一体なんなんですかね」
この少女は一体何者なのだろう。
虚言癖のある手品師か何かだろうか。
何をどこまで信用していいかわからなかったけれど、適当に話を合わせつつ、僕はリリィさんの隣で歩き出した。
市営球場と美容院の方向はまるで逆とは言わないものの、決して近いという訳でもない。
だが、とりあえず案内するだけなら、そこから電車一本でなんとか予約している時間にはギリギリ間に合うだろう。
そんなこんなで、ポジティブというか何に対しても基本的に無頓着な僕は、このメイド服を着た謎の美少女との散歩を堪能することに決めたのである。
「何をジロジロ見ているのだ」
並んで歩いているリリィさんが僕を下から睨みつけて言う。切れ長で少し釣り上がった瞳が怖い。
これはアレだ。
別に怒っている訳ではないのに、黙り込んでいるだけで「なに怒ってんの?」と友達から聞かれてしまうタイプの顔立ちだ。
「いや、あの、今更なんですけど…、なんでメイド服なんて着てるのかなと思いまして」
「メイドとは何だ?私はこの国の言語を起源とする言葉しかわからない。他の単語に言い換えるか、潔くその質問に対する回答を諦めるかのどちらかにしてくれ」
「それはまた面倒くさい話ですね。えっと、じゃあ、なんでそんな格好をしてるんですか?今からその、グランとかいう人と決闘するんですよね?」
「あぁ、この服装か。この世界で肉体を具現化する際、私と霊魂の位相が最も近い人間に憑依した結果だ。位相がかけ離れていると、憑依するだけで霊力を無駄に消費するからな」
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