主が与えた一打席、奇跡よ鳩とともに

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「じゃあ、今回の決闘内容はもう決まってるんですか?」 「うむ、野球で戦うとのことだ」 「はい?」 意外な回答に、僕は思わず耳を疑った。 いや、神聖遊戯『ニラ・メッ・コー』とか言われなかっただけマシかもしれないけど…、まさかのベースボールとは。 あ、そうか。 だから市営球場なのか。 「だがな少年よ、私はその野球とやらの戦い方を知らないのだ。どうやら私が本塁打を打てば勝ち、凡退すれば負け、ということらしいのだが」 「ははぁ、何やらずいぶんと男らしいルールですね」 「ルール、とはどういう意味の言葉だ?」 「えっと、その…、掟とか、規則とかいう意味です」 「そうか。では、頼りにしているぞ、少年よ」 では、の意味がよくわからなかったけど、その時にリリィさんが見せた笑顔がとても魅惑的で、僕はもうすっかり返す言葉を失ってしまう。 そしてやがて、目指す市営球場が見えてきた。 「ここか?」 役目を終えたハトを再び自分の肩に乗せたリリィさんからのその短い問いに、僕は黙って頷くことで答える。 この市営球場の場所はもちろん昔から知ってはいたけど、文化系の僕にとっては火葬場と同じくらい普段は訪れる必要のない場所のひとつだった。 受付に座っている市の職員らしきおじさんにどう説明して入場許可を得ようか、それともそ知らぬ顔でしれっと入ってしまおうかなどとひそかに悩む僕。 だがそう長く思案する間もなく、僕は辺りを包む異常な空気を察知した。 社会人野球、あるいは草野球の試合の途中なのだろうか、野球のユニフォームを着た中高年の男性たちがダグアウト周辺をウロウロしている。 いや、ウロウロというよりオロオロといったほうがしっくりくるかもしれない。 口々に「あいつ、誰だよ?」「誰かの知り合いか? 」「試合が台無しじゃないか!」などと言い合っている。 明らかに、只事ではないムードが漂っていた。 「少年よ」 「何ですか、リリィさん」 「おぬしはまだ気づいておらんだろうが…、グランはもう、すぐ近くにいるぞ。先程から明らかに空気が変わってきているからな」 「すみません、とっくに気づいてました。とりあえず、これ以上無関係な人間を巻き込まないためにもサッサと決闘を終わらせましょう」
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