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今までどおりそう軽口を叩いて、隣に立つリリィさんの横顔を見た瞬間、僕は思わずハッと息を呑んだ。
そこに立っているのはメイド服を着た少女。
だが前を見据える彼女のその険しい眼差しは、形容し難いほどの強烈な闘気に満ちていた。
それは、獲物を力ずくで屈服させんとする戦士の目。
逆らう者を容赦なくねじ伏せてきた王者の威厳。
全身から発せられる足がすくむほどのオーラ。
僕はこの時、ようやく理解した。
この少女がただの人間ではないということを。
理屈ではなく、本能で理解した。
「いくぞ少年。おぬしらの世界、今再び私が守ってやる」
「あ、は…、はい!」
メイド服のままスパイクも履かず、スタスタとグラウンドへ向かうリリィさんの、頼もしくも華奢なその後ろ姿を慌てて追う。
そのままの勢いで、気の抜けた普段着の僕とメイド服のリリィさんという何ともこの場にそぐわぬ珍妙なコンビは、熱気渦巻くグラウンドへと躍り出た。
そこに展開されていたのは明らかに野球の試合途中の様相で、グローブを装着した守備側の選手たちは当たり前のようにそれぞれのポジションについている。
スコアボードを見上げれば六回裏。
先攻のチームが初回に一点を先取して以降、互いにゼロ行進が続いているところを見るとなかなかのクロスゲームが展開されているようだった。
なんてことのない、ありふれた一場面。
ただひとつの特異点を除いては。
「遅かったな、リリィ!待ちくたびれたぞ!」
僕らを見るなり、マウンドに立っていた女性が大声を張り上げた。
そう、それこそがただひとつの特異点。
野球の試合中のマウンドに少女が仁王立ちしていたのだ。しかも、リリィさんのとは若干デザインが異なるものの、またしてもメイド服である。
あれがリリィさんの宿敵、グランさんなのだろうか。だとしたら、メイドというのはもしかして人類の中で最も人外と魂の位相が近い存在なのかもしれない。
あと一人ぐらい同じ境遇の人を見かけたら、そろそろ本格的にノーベル幽体科学賞用の論文を書き始めてもいいだろう。
「待たせたな、グランよ!またノコノコとやられに来たか。お前も懲りない奴だな!」
リリィさんもまた、負けじと大声を張り上げる。
いきなり現れた二人のメイド(と、普段着の冴えない男)を交互に見比べ、試合中だった選手たちは何が起きているのかさえわからず立ち尽くしていた。
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