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ノアはテキーラとオレンジジュースを入れたグラスの中に、静かにグラナデンシロップを注いでいく。
徐々にグラデーションになっていくテキーラサンライズを眺めているリラは、どこか寂しげな表情に見える。
「本当にアークの夜明けのようですね」
「僕がそう言おうと思ったのに。テキーラサンライズの色は、アークの海の夜明けにとてもよく似ているねって。先に言われちゃったなあ。
アークから出てから好きになったんだ。時々アークの海が恋しくなるとこれを飲むんだ」
リラの寂し気な笑顔がノアの頭の中に、リラと並んで見るアークの夜明けを浮かばせる。見た事はないはずなのに、何故だかそれはとても鮮明で、ノアの心を強く締め付けた。
「リラ、夢でも見たのかな。こうやってリラと並んでアークの海の夜明けを見た気がするんだ」
「ノア……。私は夜明けが見れなくてもいいから、ノアとこうして一緒にいたいのです。ここに夜明けはありますから」
リラはグラスを上にあげて、ノアの前に掲げる。
「どうしたの、やっぱり僕がいなくて寂しかった? リラにそんな風に言われると掟にも背きたくなる。わざと僕をからかっているの?」
ノアだって他の若いアークの民のように婚姻の掟を破り、リラに触れてしまいたいと思う。けれどもノアは長の息子だ。勝手を言ってカナダの大学へ行き、そこから研究所で勉強を続ける事を許してもらった。それだけでも、アークの民の中には次期長としての自覚が足りないと言う者も多い。
おそらくノアがリラと結婚したいと言えば、更に反対の声が上がる。そしてそれはそのままリラに対して向けられるだろう。
けれども、これだけは何があっても、ノアには曲げられない。だからこそ、アークの規律に従い、リラが成人し、ノアがこのアークの海洋生物研究所の所長として戻ってきたら婚姻の儀式を行うつもりでいた。
夜明け色の液体が喉を通る感触は熱く、すぐに顔がほてってくる。本当にアークの民は酒に弱いようだ。同じように飲んでいるはずなのに、リラは頬さえ染めていない。
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