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ノアの体が急激に冷たくなる。寒い、いや寒いなんてもんじゃない。冷たくて、暗くて、寂しい――――そんな感覚がノアを襲う。
「そうだ、思い出した……リラ、僕は手がかりを掴んだ。カナダの研究所で衛星写真を見ていて、ある事に気付いたんだ。あれはきっと、15年前の事故の手がかりになるはずだった。
そして一年前リラと別れ船に乗りこんだ僕は、凍てついた大地でフローレス夫妻を見つけたんだ」
「ノア、お願い……」
リラの言いかけた言葉はノアの頬に指先が触れた途端消えていく。ノアの体が先程までとは違いまるで氷のように冷たかったからだ。指先からリラまでもが凍りつきそうな程に。
「ごめんね、リラ。僕は約束を果たせなかったんだね。
でも、どうしてもリラにフローレス夫妻の居場所を伝えたかった。だからこうして慰霊祭の行われている今日、アークに戻ってきたんだ。
リラ、お願いだ。リラの両親と、それから僕のいる場所へ来て欲しい。
これから話す事を、長に伝えて。長ならきっと分かってくれる。リラ、フローレス夫妻は事故で死んだんじゃないんだ……」
いつしか、ノアを迎える為に外に灯されていたキャンドルの灯りが消え、ノアもリラの前から姿を消した。
遠くから、弔いの鐘が聴こえてくる。沢山のアークの民を失った鐘、それから去年より一つ多い次の長を失った哀しい鐘が。
リラは主のいない家の中で、朝が来るまで泣き続けた。二つ並んだテキーラサンライズは氷が溶け、もうアークの夜明けには見えない。
外はいつの間にか雪が止み、代わりにアークの海がオレンジ色に輝きだした。そして徐々に赤い太陽がせり上がってくる。
――――アークの夜明けだ。
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