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「バーンズ博士、そろそろ私の質問に答えて下さい」
バーンズはリラを見ながら、ごくりとホットワインを飲む。
「ノアと呼ばないと答えない。外は寒いからリラも少しだけ飲んでみる?」
ノアがワインを差し出すと、リラはもうっと眉間に皺を寄せた。
「私はまだ飲めないの分かっていて言っているんですか? 何でもいいから、ノア博士、早く答えて下さい」
「……リラは本当に頑固だね。仕方ない、ではアシスタントに命じる。これからはノアと呼ぶように、これは命令だよ」
リラは横暴だと言うように口をへの字に曲げてノアを睨みつける。そんなコロコロと表情の変わるリラを見ているのがノアは好きだ。
「わかりました、不本意ですがノアと呼ばせて頂きます。でも、海洋生物研究所に対する風当たりは相変わらずですし、私がここで働く事を良く思っていない人もいます。だから……」
リラは言いにくそうにノアの顔を見て、そのまま黙り込んでしまう。
「だからアークの長の息子である僕とは仲良くできない? 僕の両親が外の者を神聖な海に入れたからあの事故が起きたっていう話をリラも信じているの?」
「そんなこと。でも、神話を信じている人が多いのは事実です」
きっとどこかでリラは責任を感じているんだろう。彼女は何も悪いことをしていないのに。
確かにあれは酷い事故だった。15年経った今もまだ家族を失った沢山の哀しみの声が、このフィヨルドを木霊しているようにノアは感じる時がある。
「リラが僕に冷たくしたって何も変わらないよ。僕はリラへの態度を変えるつもりなんてないからね」
「でも、ノアまで悪く言われるのは嫌なのです」
「みんな何かのせいにしてしまいたいだけなんだよ」
ノアが吐き捨てるようにそう言うと、リラは困ったような笑みを浮かべた。
「でもね、リラ。僕は明日船に乗ってから確かめたいことがあるんだ」
「確かめたいこと?」
「それはまた話すよ。で、滞在の予定だったね……」
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