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リラを苦しめるその原因は、ノアの民族にある。
高い山々と海に繋がる入り組んだフィヨルドが長い間アークを守ってきた。冬になれば陸の孤島ともなるアークには、厳しい環境に適合する為の独自の文化や習わしがある。
ノアが生まれるよりも前に、アークに探検隊が辿りつく。アークの民は、その者達にアークで暮らす為の知恵を授け、冬を越す為にアザラシの捕り方や捌き方を教えた。
代わりに彼らの持ち込んだ、アークの民の知らない西洋文化、宗教、言語、アルコールなどがアークにも広がっていき、白クマの毛皮で作った防寒具は化学繊維に、犬ゾリはスノーモービルへと変わっていった。
次々にやってくる外の者は、アークで捕れる白くまや海獣たちの毛皮や牙を欲しがった。
アークの民の生きる手段でしかなかった狩りや漁が、いつの間にか生活を潤し始めた。毛皮、牙、油、肉――――望まれるものを言われるがままに差し出す為に、アークの男たちは多くの生き物を手にかけた。
本当は皆どこかで異変に気づき始めていたのかもしれないのに。
でも、誰かがそれを口に出した頃にはもう既に手遅れだった。乱獲を続けたアザラシやイルカ、シャチ、白クマやカリブーはその数を激減させ、今までのように捕ることは出来なくなってしまう。
そうしたアークが外の世界から見捨てられるのは時間の問題で、徐々に人々はアークから姿を消し、アークは元の閉塞的な場所へと戻る。
けれどもアークの民の生活は昔とは様変わりしていた。一度手にした利便性を手放す事はとても難しい。
そして、漁や狩りをして生活しようにも昔のように簡単に獲物を捕らえる事は出来なくなっていた。
多くの民は長であったノアの父親に怒りをぶつけ出す。そして、僅かに残ったアークを支援し続けていた外の者達に対しても強い不信感を示し、苛立ちをぶつけるようになった。
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