◇ ナーフェルにて

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「今日はリラと一緒に飲みたいな」 リラは案の定うんとは言わず、申し訳なさそうに目を伏せた。リラが好んで『Narwhal』に行くわけもないから、当たり前の反応なのかもしれない。 「『Narwhal』じゃなくて、僕の家で二人でなら付き合ってくれる? 向こうで買ってきたお酒で、リラに作ってあげたいカクテルがあるんだ」 リラは小さく「カクテル……」と呟いて、ノアを見る。でも、ノアはそれ以上言わずに扉を開け家の中に入った。 「ここはリラが手入れしてくれたの?」 アークの伝統的な柄を織り込んだベッドカバーに、床に敷かれた毛皮のカーペット、壁に掛けられたタペストリー。それはどれも馴染みのあるもので。 「そうです。海辺の家に置いてあったものを長に許可を頂いてここに移したのです。ずっとそのままにしてあったので、ノアが帰ってくる日までに整えておきたくて。 研究所の方々が家具などは運んで下さったので、私は部屋の掃除やカーペットなどの手入れをしただけですが。 ああ、そろそろ雪が降りはじめるかもしれませんから、ヒーターを入れてあります。暑くはないですか?」 「ああ、それで暖かく感じたんだね。ありがとう。部屋も綺麗にしてくれて嬉しいよ。リラは海洋生物研究所の仕事には慣れてきた? まだ始めたばかりだから慣れないかな」 ベッドの上に腰掛けたノアは、目の前に突っ立っているリラの手を引いて隣に座らせる。 「もう、大分なれました。今は少しずつ飼育の方法も勉強しています。研究所の皆さんは良い方ばかりで、優しく接してくれます。父や母……それからノアの事を知っている方も多いので」 「そうか、それは良かった。まだイッカクには触れていない?」 「はいまだ。でも、毎日見ているだけでも、少し彼らに近づけたように思えます」
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