[2]

3/9

5人が本棚に入れています
本棚に追加
/46ページ
 「おい、マサト、アケミの話を聞いてたか」  不意に戻った今に、曖昧な頷きと笑みを溢せば、呆れたようなタケシの姿が見えた。  「っつーか、絶対聞いてなかったよな」  「ははは、ごめんな、バレたぁ」  獣は、姿を眩ましていた。  首筋に絡み付いていた感触だけがやけに現実味を帯びている。  「マサト君、あのね」  アケミを見れば、少し頬に赤見が指したのが伺えた。  「明後日から夏休みでしょ、だから、三人で海とか遊びに行きたいなぁって、タケシと話してたんだけど、どうかな」  上目使いで見られ、吐き気に襲われる。  あぁ、これは現実だから、大丈夫。  深く息を吸い込み、慌ただしい位に音を立てる心臓にワルツのリズムを重ねる。  「いいよ」  仮面で覆った表情で微笑めば、アケミは真っ赤な顔で頷いた。  隣にいたタケシが俺の脇腹を、アケミに見えない位置から軽く殴ってくる。  ニヤリと不適な笑みを浮かべて来る姿が視界に入る。  口をパクパクと、金魚が餌を欲するような動作で動かすタケシの唇から「よくできました」と聞こえた気がした。  その姿を見て、妄想が現実に重なる。  こんな2人を何度殺したか、分からない、と。
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加