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「おい、マサト、アケミの話を聞いてたか」
不意に戻った今に、曖昧な頷きと笑みを溢せば、呆れたようなタケシの姿が見えた。
「っつーか、絶対聞いてなかったよな」
「ははは、ごめんな、バレたぁ」
獣は、姿を眩ましていた。
首筋に絡み付いていた感触だけがやけに現実味を帯びている。
「マサト君、あのね」
アケミを見れば、少し頬に赤見が指したのが伺えた。
「明後日から夏休みでしょ、だから、三人で海とか遊びに行きたいなぁって、タケシと話してたんだけど、どうかな」
上目使いで見られ、吐き気に襲われる。
あぁ、これは現実だから、大丈夫。
深く息を吸い込み、慌ただしい位に音を立てる心臓にワルツのリズムを重ねる。
「いいよ」
仮面で覆った表情で微笑めば、アケミは真っ赤な顔で頷いた。
隣にいたタケシが俺の脇腹を、アケミに見えない位置から軽く殴ってくる。
ニヤリと不適な笑みを浮かべて来る姿が視界に入る。
口をパクパクと、金魚が餌を欲するような動作で動かすタケシの唇から「よくできました」と聞こえた気がした。
その姿を見て、妄想が現実に重なる。
こんな2人を何度殺したか、分からない、と。
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