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 『そのまま頭の皮を剥いでしまえばいいのに』  自分の中の獣が、薄ら笑いを浮かべながら呆れたように呟いた。  ツキンと痛む頭を押さえるように片手で顔を押さえれば、心配そうなオッサンの慌てた姿が見えた。  「た、武石君、大丈夫かい」  「だ、大丈夫、です」  荒い息を吐きながら、呟くとオッサンは近くにいた人物の名前を叫んだ。  「おぃ、アケミ!」  「どうしたの、お父さん」  憮然としなが、ぶっきらぼうに玄関から上がってくるアケミを見上げようとすれば、視界が揺らいだ。  「あれ、武石君、どうしたの」  俺の通う高校の制服をまとった少女が俺の背中を擦った。  温かな感触と柔らかな匂いが鼻に届く。  アケミ、そうか。  新山猛志が鼻を高くして自慢していた幼馴染みだと、脳みそが部厚い日記を唾液まみれにした指で捲り始める。  「大丈夫?」  学校で一番人気だと称される少女の姿を確認すると、俺は意識を失った。  記憶が、今まで誰にも触れられたことがない温かさに驚き、獣が警戒し唸るような低い音が、遠退いていく意識の中で五月蝿く鳴り響いた。
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