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 目覚めた先に見えたのは、見慣れたはずなのに馴染みが沸かない、円の形をした電球だった。  その灯りが、目覚めたばかりの瞳には眩しくて目を細める。徐々にその灯りに意識の覚醒を促され上半身を起こそうと、光を見上げる。  目の前の天井に吊るされた物言わぬ蛍光灯。そこから放たれる白い光が何故か無性に恋しく思えて、手を伸ばせば掴めそうな気がした。  無言で、腕を垂直に伸ばし、限界点で掌を握り締める。  爪が食い込む皮膚の鈍い痛みだけが、広がる。  電球どころか、空気すら掴めない己の不甲斐なさに不思議な笑みが零れた。  光をこれ程までに求めてしまうほど、俺は黒く染まってしまったのか、と。  そして、俺は、何も掴めないのだ、と。  額に置かれた濡れたタオルを取り上げる。冷たさと人の体温を吸収した暖かさの二面性が、今の自分に重なって見えて、どうしようもない虚しさが身体の中を駆け巡っていく。  むず痒い感覚が、心の角に取り残される。  「はぁ」  無意識に溜め息を吐き出せば、隣から噂話をする学校の女子たちのような会話が、すきま風に乗って、耳に届いて来た。  「だから、お前は、」  低い声。  「しかないじゃん」  軽い、少し甲高い声。  「だから、とーさんが残るからお前は、」  「大丈夫だよ。私が残るから。心配し過ぎだよ。大体、」  「だが、武石の息子は人殺しなんだぞ」  あぁ、やっぱりそうなるよな。    みんなが大好きな、同情と蔑み。俺が居るのに得意な演技はしないのか、と叫びたくなる。いや、意識がないと思っているからこそ本音が出るのかもしれない、と苦笑する。  さぁ、罵倒したいだけ、暴言を罵ればすればいいさ。  腹の底で、ソイツが人の形を形成させていくむず痒い感覚に、全人を掻きむしりたい衝動にかられる。  蛆虫がヌメネメと蛞蝓[ナメクジ]のように這い上がってくる感触。  「だから。だったら私も人殺しかもね」  その台詞が僕の身体をはいまわる感覚を遮断させた。
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