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 「助けてぇ、アケミぃー、潰されるぅ」  机と俺に挟まれ、身動きが取れなくなっていたタケシが情けない声を上げながら、片腕を空中に差し出す。そして、アケミと呼ばれた少女のスカートの裾に絡み付く。  手のひらに這い回っている血管が浮き彫りになるほど、強い力で握り締められている様子が視界の端に映り込み、冷たい感情が込み上げる。  「いい加減に退けてあげなよ。マサト君」  川島明見の柔らかい声に諭され、冷たくなった感情の存在に気付き、慌てる。  己の仮面が剥がれかけていた事にたいする羞恥が頭を支配し、舌打ちをした。  悟られないよう、いつも通りの平常心を装いながら、自分の感情を絞め殺したい衝動にかられる。  まだまだ、青い。  表面的な笑みを浮かべると、俺は前方に寄りかかっていた身体の重心をずらし、タケシの背中から離れた。  安堵する横顔を見下しながら、爪の甘さに歯痒さを覚え、顎が軋む音を楽しむ余裕さえない位、奥歯を噛み締めた。  生え始めた親知らずが、悲鳴を上げた。  その痛みに軋んだ頭が、脈打つ音に会わせてこめかみを何度も刺し続けた。
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