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次第に鈍くなる認識力が、尖った千枚通しを繰り返し刺してくるような痛みの感覚だけを鮮明に浮きあがらせる。
「つぅ」
脈打つ度に自分の内側に飼っている獣が、長い爪を磨いでうすら笑っている感覚がして吐き気に襲われる。
痛みを押さえようと視界を手で遮れば、額から冷たい汗がわき出ていた。
「おい、大丈夫かよ」
叫びに近い声に続く、生き物の温かな温もりを背中に感じながら「大丈夫、だから」と深く呼吸を繰り返せば、獣は詰まらなさそうに闇に紛れて姿を消していった。
「ありがと、もう大丈夫。いつもの偏頭痛」
「マサト君、あんまりムリしない方がいいよ」
心配を装うのが上手い2人の演技に、心の中で拍手を送りたくなる。
「あぁ、あんまり酷いようなら保健室行ってくるから」
「うん」
俺より幾分か低い頭を傾けて、タケシが寂しそうな表情を浮かべ見上げてくるから、それに便乗させてもらうことにする。
「心配すんなって、それよりも赤点を心配しろよ」
「、なっ」
悪戯めいた言葉で場の空気を切り替えれば、重たかった雰囲気が軽快に漂う喧騒にまじりあう。
「また赤点なのね」
肩まで真っ直ぐ伸びた髪を揺らしながら、大きな瞳と長いまつ毛を細め、アケミはタケシを見下ろしながら小さく笑った。
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