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昔から、そうだった。
物心がついた時には、誰もが持っているモノなのだと感じていた。
強迫観念と自傷めいた絶望感は俺の中で黒く、底無し沼のように渦を作って生き物のように蠢いていて、最近は俺の姿を偽ることを覚えてきている。
『クックク、この人殺しが』
ソイツが俺に静かに囁く。しかも最近はその頻度が増している。そして毎回、震える俺を嘲る表情を浮かべ、明らかに楽しんでいる。
人殺し。
だが、俺の認識にある記憶を反芻してみても、その言葉に当てはまる経験は一切ない。
なのに、その言葉にせりあがる恐怖を押さえることができない。
何かを渇望する一方で、それは危険な事なんだと、理性を制する自分自身の葛藤が続く。
『人殺し』
確かに、想像上では何人殺したのかさえ、想像はつかない。
「でも違う」
妄想で殺した相手に話しかけられている現実が、ある。
『いんにゃぁ、人殺しだろ』
「違う」
『じゃぁ、お前にとって現実と妄想の境目はなんなんだ』
境目。そんなの簡単な話だ。
「俺がいる場所が現実なんだ」
掌を痛いくらいに握り締めると、一瞬、驚いた表情を浮かべ、一気に眉間にシワをよせた奴が、俺の首に白い両手を巻き付けながら、悪辣な言葉を吐き捨てる。
『この世の境目ほど、曖昧なものは無いぜ、優等生のマサト君』
ヒンヤリとした首筋に力が込められた。
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