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とある田舎街の人里離れた処にソレはあった。
小高い丘の上にひっそりと下界を見下ろすように建てられた古い洋館……。
その建物は明治の中頃に来日した後、有名な建築家となる異邦人が一宿一飯の恩義にと無償で設計し、建築されたものらしい。
だがその記録は何処にも記されてはいない。
何故なら幾多の戦火に見舞われながら焼け落ちる事を逃れたにも関わらず、長い年月と移築に次ぐ移築により人々の記憶から忘れ去られていたからだ。
今となってはその事実を知るのも、他所からこの洋館へ嫁いできた若い女主人だけになってしまった。
しかも先々代の当主がこの洋館を孤児院に創り変えるべく、水周りのリフォームを大掛かりに行った為に歴史的建造物としての価値はグンと下がってしまっている。
けれどもいずれこの洋館を継ぐ事が決まっている女主人の姪、愛澤つぐみ(21)はそんな事実も知らず毎日慣れ親しんだこの洋館を大事にしていた。
彼女にとってこの洋館は歴史的価値など関係なく、幼少期の思い出が詰まった大切な“我が家”だったから……。
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