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「なんで泣いてるのさ」
言えない。本当なら握りこぶしを振り回して声を荒げ回りたいのだ。「覚えてるならもっと早く来いや!!」と。しかし、言えない。
もはや梗塞だ。口が動かない。呼吸もままならない。つくろえない。
「なんでもない」
「またまたー」
「なんでもないってば!!」
もしかして、自分だけぐるぐる回って、一人で暴走していただけなのだろうか。じっくり腰を据えても世界は回り続けるし、そこまで焦る必要もなかったのでは。
ローブのフードを脱ぐと、更にその下に重ねていた帽子が露わになり、三つ編みの髪の毛が揺れた。じっと睨みつけるようにメリッサは強気な視線を飛ばす。しかし、それすらも太陽光で光合成しているかのように穏やかな瞳で見返すあの時の少年。
見かけでは20代だろう。もう少年と呼べる年齢ではないが、それでも少年と呼ぶのは、彼女の中の補正なのだろう。それとも、流れゆく時間の中でも、前にしか進まない自分たちに少しでも歯止めをかけようとしての呼び方なのだろうか。
「どうせ、これもあなたが仕組んだことなんでしょう?」
「まぁ、一概にそうとは言えない」
「否定しないのね」
あの時の約束。バカみたいなお話だけど、どこまでも追いかければ、いつかは実現できる。少年の手には、国家認定の宮廷建築士の証明書が握られていた。
「さぁ、つくろう」
「ええ」
『二人の城を』
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