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10年経った今でこそ少年の姿ではないだろうが、きっと、当時の面影は残っている。
にこやかに。ほがらかに。青春の70パーセントを勉学に捧げた私でも、女性らしい笑みは作れることを無理やり証明してみせて、勝手に安心した。
「おーい!!」
メリッサがいくら手を振っても、カーテンに見える人影は一向に動こうとしなかった。
もしかして人違い? という懐疑心と羞恥心が足並みそろえて歩み寄ってきたとき。
窓の影に変化があった。
ふわ、とプリーツが風に舞い、中の人影が露わになる。
遠目でもはっきり見えた。これを恋心と呼んで良いのかは判別できないが、恋心は時として人を何倍にも焚き付ける。
栗色のマッシュヘアー。子供らしさと大人びた雰囲気を両立させたボディライン。控えみな笑み。
それを見た瞬間、脳に焼付いた古いフィルムと、網膜のレンズに映った鮮明な映像がいびつに折り合い、明滅と乱反射を繰り返す。
あの時の。あの時の少年だ。もう少年じゃないけど、間違いない。あの時のままだ。あの時の。あの時の。あの時の。
恋心は時として人を何倍にも焚き付ける。それが、どの道に向いていようとも。
「私だって、メリッサだってば」
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