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古代の魔術は、本来魔法学校で指導することも、関係する資料を保管することも禁止されていた。
すべては独学で追及したメリッサの努力の賜物であり、すべては10年後の今日のために修得した成果だった。
烈炎泡散哨バクハオチ。詠唱が完了すれば、魔法陣の中心に落とされた小さな火種は膨れ上がり、泡がはじけるように大規模な爆発がつるべ撃ちされるという破壊のための魔法だ。
巻き込まれれば、人だって無事ではないだろう。もともと、無事である前提で作られた魔法でもないのだから。
それをまさか、怒りのあまりに持ち出してしまうとは、彼女自身も思いにもよらなかった。
もっと、笑いながら使うつもりだった。
きめ細かな文章と記号を並べていく。古代の禁忌は刻一刻とその姿を露にせんとしていた。
消し炭にしてしまえばいい。
思い出も。残証も。
無かったことにすればいい。
記憶も。温もりも。
火を放てばいい。
苦しみも。喜びも。
もしかしたら、焼け焦げる城からあの人が出てくるかもしれない。そんな非人道的な思考すら生まれていた。
◆◆◆
気が付けば、尤も、メリッサ自身はまだ気づいていないが、日は傾き夕方の時間が迫っていた。
あと少しで詠唱が完了する。額の汗をぬぐいながら、チョークを握る手に一層力がこもる。
その時だった。
「何書いてるの?」
時計の針が止まった感覚だ。ふつふつと煮えくり返っていた思考が一気に冷めて、視界の端が広がったような気がした。
懐かしい声。たしか、10年前にこれに似た声を聞いたことあるような。
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