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◆◆◆
「ひさしぶりだねメリッサ。10年ぶりかな?」
メリッサの目の前に現れたのは、大きくなったあの時の少年だった。
幻覚でも、見間違えでも、イミテーションでもない。潤った視界をローブでふき取り、正確にピントを合わせた。確証した。10年前のあの日にここで会うことを約束した少年本人だった。
手に握っていたチョークが落ち、石畳の上を転がっていく。
ひび割れた心が一緒に落ちていった気がした。
感情が渦巻いていた。今、目の前の彼に、どの気持ちを伝えればいいのか。怒り? 悲しみ? 喜び?
いや、それよりも。
「……私、今、最高に恥ずかしいわ。ああ、死にたい」
「というか、存在を忘れてもらいたいだけじゃないの? 死んだらなおさら目立っちゃうよ」
「的確だね」
最悪だ。恋は盲目だとは言うが、まさか近眼になるとは思わなかった。先ばかり行き急いで、髪型と体形が似ているというだけで本人であると決めつけてしまった。だとしたら私は、実はまったく面識がない人に向かって激と石と火を飛ばしてしまったわけだ。
あと少し彼の登場が遅れていたら、この城も消し飛ばしていただろう。
動こうとも体が反応しない。生涯拭えないであろう羞恥をその歴史に刻みこんだメリッサは膝を抱えたまま。
彼女の緊張をほぐすように、あの時の少年はメリッサが手に持っていた魔法学園の証明書を見つけると、人懐っこい笑みを浮かべた。
「そっか。本当に覚えてくれたんだね」
「忘れるわけないじゃないの」
少し間を置いて赤らんだ瞳を拭うと、メリッサもそれに応じ、今度は綻んだ頬を赤くさせた。
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