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「先生、千恵のこと、愛してる?」
わたしは社会準備室のソファにもたれながら、彼を見た。
制服から外したリボンタイが、彼の指に絡まっている。
「突然だな」
彼はわたしの質問を笑い飛ばした。
「池内は真面目なんだよ」
「わたしだって先生の授業、ちゃんと聞いてましたよ」
「嘘ばっかりだな。教壇から見れば、ちゃんと分かる。お前は窓の外ばかり見てたからな」
彼は窓辺で、そこに映るわたしを指さした。
わたしは立ち上がって歩み寄る。
「先生が映ってたからです」
彼がわたしをまっすぐに見た。
わたしは夕日に照らされたその頬を両手でとらえて、口づけた。
「これも奇跡?」
彼はうめき、答えないまま、わたしの身体を離した。
あれから4年。
部のメンバーとは大学もバラバラになって、ほとんど音信不通だった。
だから、千恵から結婚披露宴の招待状が届いたのは唐突で、わたしはしばらく郵便受けの前に立ち尽くした。
夏の午後はとても日差しが強くて、わたしの影を色濃く地に留めた。
セミがじりじりと鳴き、わたしの額に張りついた汗に響かせる。
「先生……」
先生とわたしのP点が、遠い記憶のかなたで光って、消えた。
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