第1章

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「先生、千恵のこと、愛してる?」  わたしは社会準備室のソファにもたれながら、彼を見た。  制服から外したリボンタイが、彼の指に絡まっている。 「突然だな」  彼はわたしの質問を笑い飛ばした。 「池内は真面目なんだよ」 「わたしだって先生の授業、ちゃんと聞いてましたよ」 「嘘ばっかりだな。教壇から見れば、ちゃんと分かる。お前は窓の外ばかり見てたからな」  彼は窓辺で、そこに映るわたしを指さした。  わたしは立ち上がって歩み寄る。 「先生が映ってたからです」  彼がわたしをまっすぐに見た。  わたしは夕日に照らされたその頬を両手でとらえて、口づけた。 「これも奇跡?」  彼はうめき、答えないまま、わたしの身体を離した。  あれから4年。  部のメンバーとは大学もバラバラになって、ほとんど音信不通だった。  だから、千恵から結婚披露宴の招待状が届いたのは唐突で、わたしはしばらく郵便受けの前に立ち尽くした。  夏の午後はとても日差しが強くて、わたしの影を色濃く地に留めた。  セミがじりじりと鳴き、わたしの額に張りついた汗に響かせる。 「先生……」  先生とわたしのP点が、遠い記憶のかなたで光って、消えた。
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