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黒のタートルネックのセーターと、深緑のロングスカート。
地味だけど、私よりもスタイルが良い彼女達の前で脚も胸元も出す勇気は無い。
口紅だって、競い合うように新色を買う二人とは違う。入学の時に買った小さなパレットを、色を混ぜて使っている。
何もかも、違うんだ。
鏡の中の自分が滲むのを叱るように、イヤリングを付ける。
母譲りの、小さなカメオのイヤリング。
オレンジ色とベージュの中間色に、白い風景が彫られている。
森の木々と、花。
よく女性の横顔の彫られたカメオを見るけど、あれはブローチ向きだと思う。
自分より綺麗な顔を、両耳に付ける気にはなれないわ。
待ち合わせをした店は、地下鉄で通り過ぎるオフィス街にあった。
少し早目に家を出て良かった。
帰宅する仕事を終えた人の波に逆らうように進む。
地上に出る階段で向かいから駆け下りる人にぶつかられた。
あ、
と思った時には片足を踏み外していて。
産毛が逆立つような感覚に目を瞑った。
次の瞬間、
ギュッと掴まれたうでの痛みと、
背中に当たる固い壁。
目を開けると、男性が私を見下ろしていた。
「気をつけて」
低い声でそう言われた。
「すいません」
後ろにいた人かもしれない。
落ちるのを、掴んでくれたんだ。
「ありがとうございました」
お辞儀をして慌てて駆け上がる。
ぶつかられたんだけど、ぼうっとしていたから私のせいかもしれない。
恥ずかしくて、顔を上げられなかった。
待ち合わせの店の前では、いつもより綺麗な二人がいた。
「やだ、なんかいつもより上品。
あー、そういう方がウケ良いのかな。坊ちゃんには」
そんなこと無いよ。
男の子ならみんな、あなたのツヤツヤした唇に目を奪われる。
「昔の映画女優っぽいよ。レトロで可愛い」
そんなこと無いよ。
あなたの会話と可愛い声で、みんな笑顔になる。
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