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程なく二人の男性が来て。
店内に入ることになった。
もう一人は遅れているらしい。
なんだ、私来なくても良かったんじゃないかな。
四人とも意気投合して楽しそうだし。
帰りたい。
みんながお酒を飲んで、笑い合う度にドアを見る。
タイミングを見て、一直線にあそこに向かえば良いんだ。
その時に入って来た人が、辺りを見渡した。
目が合う。
同席の男の子が手招きした。
「仙崎、こっち」
頷いて、わたし達の席に来た彼は、遅れてきた事を謝った。
それきり、話さない。
白いシャツに黒いVネックのセーターを着た彼は、他の二人のように笑ってないし、質問もしてこない。
料理を食べてお酒を飲む。
彼は杯を重ねても顔色が変わらなかった。
「つまらないでしょう」
不意に彼がそう言ったので、唐揚げを頬張っていた私はむせそうになった。
顔を上げると、
「僕はあまり気が利かないし会話も下手だから、つまらないんではないですか」
と、前を向いたまま言われた。
「……私だって。」
彼がこっちを向いた。
「そういう風にいうなら、私だって楽しむ努力をしてないわけで。どちらか片方が楽しませる側って変じゃないですか。
ぼんやりここにいて、珍しい体験をしただけでも面白いです」
彼は、瞬きをした。
わ。
まつ毛長い。
切れ長の目が細められた。
そこから会話が弾んだ訳ではない。
ぽつり、ぽつりと話した。
彼が、怪訝な顔をして首を傾げた。
「……耳、それ」
手をやると、イヤリングが片方無い。
階段で落とした?
なんで気づかなかったんだろう。
「駅で、人にぶつかって……落としたのかも」
もう片方も外す。
ハンカチに包んでバックにしまった。
それからは、帰りに駅でもう一度探そうとか考えていて、
「え?」
彼が何か言ったのもよく聞いていなかった。
彼は他の人達に何か言って、私の荷物を持って立ち上がった。
「行こう」
と言われて、キョトンとしている私に焦れたのか背中を押した。
これは。
二人が言ってた
『いい感じになって抜け出す』というやつなんだろうか。
彼は通りに出ると、手を下ろした。
「ごめん。
早く探しに行きたいんじゃないかと思って。」
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