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彼は申し訳なさそうにしている。
きっと、彼女達は誤解しただろうし、彼だって後から詮索されるだろう。
この人、ちょっと怖そうだし無口だけど。
実家で買ってた秋田犬に似てる。
無駄吠えしないし、近所の子供が泣くくらい鋭い目付きだけど。
「ありがとう。本当は気になって仕方なかったの」
ほら。こんな風に
嬉しいとき、目を細める。
それから私達は、ゆっくりと駅までの道を歩いた。イヤリングを探しながら。
下ばかり見てると危ないからと、彼がセーターの裾を持つように言って、私は伸びないように気をつけて付いていって。
恥ずかしくて、顔が上げられなかった。
駅の階段には、残っていなかった。
あれからも多くの人が通っただろうし、踏まれているかもしれない。
彼は慰めの言葉を探していたようだけど。
髪をくしゃりとかきあげて、ごめん、と言った。
「ううん。これだけ探したから諦めがついた。付き合ってくれてありがとう。」
まだ彼が気にしているようなので、バックから片方のイヤリングを取り出した。
タートルネックの折り返しに止める。
「ほら、こうすればブローチになるし、他の金具でネックレスにも出来るわ。大丈夫よ」
彼は、笑みを浮かべた。
「君はこの駅、普段降りないんだろ。俺はバイト先が近いから、落し物で届いてないか明日にでも訊くよ」
「ありがとう。」
地下鉄に乗るのを見送ってくれた。
椅子に腰かけて、ドキドキしていることに気づく。
なんで、今更。
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