仙 老 化

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夢をみていた。 目を開ければ、薄闇。 夢の中で、自分の指先までがフワフワしている。 夢と現実の境目は曖昧で 覚醒が近いのがわかるのに 薄絹の向こうに手を伸ばすようなもどかしさ。 ゆっくりと、意識が目覚めていく。 部屋を見渡す。 ここは、私の部屋じゃない。 だからこれはやっぱり 夢だ。 棚の上に、ごちゃごちゃと色んな物が溢れている。 入れ歯の置物 美味しそうなのに、まともな味が何一つない飴 アスファルトフィニッシャーの形の、ゴミ取りコロコロ 弁髪のカツラ くだらないおもちゃ達。 とても、見覚えがある。 ああ、これは。 先生の診察室で見たガラクタだ。 『ガラクタなんて、ひどいなあ』 だって。 こんなの掃除の度にいちいち面倒じゃない。 『うん、で、気分はどう』 悪くはないけど夢を覗かれてるようで、 『でも、夢じゃないし。色々話しやすいんじゃないの』 声が、優しいぶん、姿が見えないのが不安になる。 色々話してしまうと困るのだ。 『倒れてビックリしただろう』 ええ。 『僕もびっくりしたよ。でも、考えようによっては悪いところとじっくり付き合うチャンスだ。』 黒猫の人形をじっと見る。 ここから声が聞こえてるような気がして。 おどけた表情がピクリと動いた気がした。 「先生、催眠解いて下さい」 猫が飛び上がった。 捕まえて、入れ歯に尻尾を挟む。 「解かないと離してあげませんよ」 『うーん。やっぱりカウンセリングは難しいね。』 「先生、もう、終わりに」 『わかったよ。そうか、君の印象では僕は猫の人形なんだね。もう一つだけ。君は、今どんな姿をしている?』 それは。 「お婆ちゃん、です。もう見慣れて来ちゃった」 『そう。 さて、君のためにもっとカウンセリングの勉強しなきゃ。 ねえ、今なら正直に言ってくれるかな。僕と結婚しない?』 黒猫が両手を合わせている。 思わず可愛くて吹き出した。 「私は、口の上手い人より口下手な人が好きなんですよ」 猫よりは、不器用な犬の方が。 『そっか。残念だな。もう少し眠ると良い』
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