第1章

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「ママ?」    旅館の部屋に辿り着くと、海帆と誠二は顔を見合わせた。  千鶴がいない。  荷物ごと、姿が無くなっていたのだ。  この男と二人で何か企んでいるのかもしれないと、海帆は誠二を見たが、すぐに彼は何も知らないのだと悟った。  どういうことだ。  こんなことは、これまでにはなかった。  まさか、旅行の途中でいなくなるなんて。  海帆は二つしかない押入を何度も開け、旅館中を探し回った。  そうして分かったのは、予約が二人分だけになっているということだった。  つまり、これは千鶴が仕組んだことなのだ。 「千鶴さんは、仕事かなあ」  誠二は、とぼけた声を出しながら、お茶をすすっている。  しかも、いつの間にか浴衣姿でくつろぎ始めていた。 「国崎さんは、ママが浮気してるとは思わないの?」 「そうだねえ」  立ち上がるのかと見ていると、うーんと伸びをしただけだった。  ぼんやりしている。  なんだ、この男は。  どうしてこんなに落ち着いていられるのだろう。 「とりあえず、今夜はここへ泊まるしかないよ。バスも電車もないしね。千鶴さんだって出てくるかもしれないし」 「はあ? 泊まる?」  誠二を見るが、何かあるならもうあっただろうことに気がつき、自意識過剰と叱咤した。
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