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海帆は人気のなくなった風呂の入り口を潜り抜けると、適当な棚を見つけて浴衣を置いた。
鏡に映った自分の姿を見る。
千鶴の男と初めて会うときにわざと着る白いワンピースだ。
ほとんど脱ぎ捨てるように棚に放り込む。
国崎誠二は、色白で切れ長の目にすっと伸びた鼻。
髪は天然パーマで、少しウェーブしている。
客観的に見て、これまで女性に不自由したことなんてないだろう。
千鶴はいつもそういう男ばかり選んでくる。
顔だけじゃない。
性格、健康、家柄、財産、全てにおいてパーフェクトな男ばかりだった。
問題があるのは千鶴の方だ。
彼女が最終的にはNOと言ったのだ。
海帆にはそれが信じられなかった。
世の中、相手の娘を邪魔物扱いするどころか、
いやらしい目で見たり、あろうことかギャンブル漬けやアル中もいる。
もしそんな男だったら、もちろん海帆は断固反対するのだが、
その反対する余地もない男を千鶴はあっさり振ってしまう。
どうして別れる必要があったのだろう。
海帆は湯船に身体を沈める。
千鶴の気持ちが分からない。
ただ、今回も見届けるだけだろう。
国崎誠二という男が、どう千鶴の元を去っていくのかを。
誠二のまっすぐな目線を思い出す。
もしかしたら、千鶴は誠二を、あるいは海帆を試してるのかもしれない。
もしそうだとしたら、何を試しているというのか。
何のために?
分からない……
でも、少しだけなら千鶴に付き合うのもいいかもしれない。
ただし、この男で千鶴の恋人に会うのは終わりにしよう。
海帆はずぶずぶと唇まで湯船に浸かった。
だからこそ、見届けるのだ。
誠二が千鶴にどう振られるのか。
千鶴がなぜ国崎誠二という男を振る事になるのか。
自分には知る権利があるはずだ。
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