第1章

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「ウググ……ビデルル、オンギグバガサラ……」  異形の生物の目が真っ赤に光りを放つ。危険を察したギルバートは大剣を離して飛び去った。ほぼ同時に眩い閃光が異形の生物の身体から放たれ、鼓膜を破るぐらいの爆音を唸らせ周りを巻き込んでいく。レイナたちが最初に気づいた時の揺れの正体はこれである。 「異世界の魔物とは少々厄介であるな。だが、吾輩の敵ではない」  異形の生物の背中に刺さっていた大剣がギルバートの意思で手中に戻ってくる。大剣を片手で振りかざすと漆黒の刃が目標に向かって飛んでいく。異形の生物は信じられない速さと動きで攻撃を避けるが、その先にはギルバートがすでに大剣を構えて待っていた。 「終わりだ」  ギルバートの大剣から放たれた高速の斬撃は十文字の切込みを異形の生物に残していった。 「バ、バルディシュ……、グルツスス……、ドバ……」  やがて動かなくなった異形の生物の十文字の切込みから黒い漆黒の炎が燃え上がり、10秒足らずで跡形もなく消えていった。  その頃、ギルバートと別れたレイナは村全体を見渡せる塔まで来ていた。異形の生物を覗き込んだ時に一瞬であったが、それでもレイナには忘れるはずのないものがあったのである。 「あれはまさか……」  レイナの視線の先に見えていいたのは数年前にこちらの世界に来た原因であった小さな転異空間である。逸る気持ちを抑えながら村のどこかに術者がいるのではないかと思い、大して体力があるわけでもないのに村の塔まで走り続けて来たのであった。
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