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でも、一つだけ気になる点がある。生まれて間もない乳児が捨てられたところで、それから先一人で生きていけるわけがない。そんなことは言われなくても分かる。
となると、多分あの少年は私と同じようにただ偶然におばけ達の世界に辿り着いて、おばけ達に育てられたのではないかという仮説に至る。あれだけ親切なおばけ達だ、ない話ではない。
それに彼は、心底親に捨てられたと思い込んでいたようだが、それは間違いなんじゃないだろうか。
もしかすると伝えた者が脚色を加えただけなのかもしれないが、少なくとも少年の母親は彼を捨てた後で自殺を図っている。そこから察するに、彼女は少年を産んだことに後悔したわけではなく、捨ててしまったことに後悔しているのだ。
要するに、彼の母親は本当の意味で少年を捨てたわけではないということだ。
何が言いたのかと言えば、これは私の勝手な妄想ではあるものの、彼の母親は少年を想い捨てたことにしたんじゃないだろうか。
少年が一人いるだけで、家族全員が路頭に迷うことになる。この言い伝えに彼の父親が出てこないのも、十中八九それが原因で別れたからだろう。
村八分にあえば、自分はおろか子供にさえ食べ物を与えてやれない、だから敢えて母親は彼をこの地に身を置いたのだ。
それがある日の晩、自分が目を離した隙に子供はおばけ達の世界に連れ去られてしまったのだろう。私と同じように。
私はそう捉えている。
今となってはその真実を確かめる術は何一つ残されてはいないが、 ただ一つ分かることは、彼が家族の温もりを求めていたということだけだ。
もしもまたあの少年に出会うことがあれば、私はこの考えを彼に伝えてやりたいと思う。
君は一人じゃないんだってことを。
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