化けうどん終了につき、500円

2/13
前へ
/13ページ
次へ
 つい十数分ほど前まで、私はこれほど不思議な事態に巻き込まれようとは思いもしなかった。  今、私の目の前で、この世のものとは思えないくらい奇妙奇天烈な生き物たちがせっせと働いている。  例えば、絵本なんかでもよく見かける、薄緑色のガーゼを拳に被せたようなおばけ。でも、何か変。  何が変って、そのおばけの周りには一対の手袋みたいものがフヨフヨと浮いているのだ。  その手袋のようなものを駆使して、おばけはその身に余るほどの大きさのお椀を運んでいた。  そんなおばけが、ザッと見積もり五匹ほど、この店『狐狸夢中』で右往左往としていた。 「さぁさぁどいたどいた、仕事の邪魔だよ!」  そんな中、手の空いているおばけの一匹が、入り口で立ち尽くす私をその手で私をシッシッと払う。  私はつい反射的に、すいませんと一歩身を引いた。  変な夢でも見ているのだろうか。  目の前の状況を全く把握できずにいる私は、ただ呆然とその様を見続ける。  思い返すこと十数分前。私は一人夜道を歩いていた。  街中や会社のムードは数日前からハロウィーンの色に染まり、 アミューズメントパークやネットのアプリゲームなんかでは各々でハロウィーンイベントを催している。  聞いた話によれば、数日前に池袋でコスプレイベントも開かれたらしく、日本では以前よりハロウィーンは深く浸透している。  でも、毎日が仕事尽くめの私には、ハロウィーンなんてものは到底縁のない話だった。ましてや、こんな日にも残業で会社に残された私にとって、あってないようなものだ。  そういうことで、私はいつものように仕事を終え、満員電車に揺られ、それから自宅までの帰路を歩いていた。  そんな中、私はある一件の店がふと目に止まった。  今にしては珍しい古びた木造建築の平屋で、白地に黒文字で『狐狸夢中』と書かれたのれんと、その両脇に掛けられた真っ赤な提灯が特に印象的な店だ。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加