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店の引き戸を開けて、のれんをくぐる。そしていつもの道に出た。
いや、出たはずだった。出たはずだったのだけれど、即座に訪れた足元の違和感に私は思わず足を止める。
それもそのはずで、今私の立っている足場は舗装されたアスファルトの道ではなく、所々に雑草が見え隠れする砂利道だったのだ。
狐につままれたような感覚に、咄嗟に私は辺りを見渡す。
そこで私は愕然としてしまった。
今、私の目の前に広がっている光景が余りにも異様だったのだ。
全く違う街に飛び出してしまったかのような、或いは、全く違う時代に飛び出してしまったような、そんな感覚だ。
言ってしまえば、今私が見ている街並みは、いつもの整頓された住宅街なんかではなく、少し広い荒れ地に切り拓かれた小さな村のような場所だったのだ。
点々と建ち並ぶ古めかしい藁葺き屋根の家々。
村には数えるくらいの人は歩いていたけれど、どの人もみな、麻でできたような簡素な服を着きているものだから、場違いなスーツを着込んでいる私は、それが理由で彼らに声を掛けることを躊躇してしまった。
それから悩んだ末、一旦気を落ち着かせようと、私は誰もいない店の中へと戻ることにした。 でも、そこから更に私は驚かされた。
つい数秒前まで閑古鳥の鳴いていた店内は、溢れんばかりの人だかりがあった。
「あの、ここは一体……」
私は、待合の椅子に座っている一人の男性に声をかけた。だが、かけたはいいものの、その顔を目にした途端、私はギョッと肝を冷やした。
ヌッとこちらを見つめる男性。いや、見つめていると言っていいものだろうか。
恐らく、彼としては私を見ているつもりなのだろうが、私からしたら彼は私を見ているようには思えなかった。
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