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なぜかって、彼の顔には何一つパーツがなかったのだから。
目もなければ、鼻も口も無い。唯一あるとすれば、耳くらいだろうか。
つまり、彼はのっぺらぼうだったのだ。
そんな彼を見て思わず顔を引きつらせ逃げようとした私だったが、一方で、彼は親切にもこの店の品書きを手渡してくれた。
そうした彼の好意をなぜか無碍にできなかった私は、震える手でそれを受け取る。受け取ったら、彼はにっこりと笑ってくれた。そんな気がした。
何はともあれ、私は渡された品書きにサッと目を通してみた。
そこで一つ分かったことがある。ここ『狐狸夢中』がうどん屋であるということだ。
でも、品書きの中はどれもヘンテコな名前が付けられていて、中でも化けうどんと呼ばれるものは、キツネ味やらタヌキ味やら、口にすることすらおぞましいであろう味のリストがずらりと並べられていた。
それにしても達筆な字。誰が書いたんだろう。
ふと、私がのっぺらぼうの男性に目をやると、突然彼はすっと立ち上がった。
反射的にビクンと肩を跳ね上げる私だったが、何てことはない、席が空いたのだ。席が空き、店員に呼ばれたから彼は立ち上がったのだ。
けれども、その店員の姿はのっぺらぼうの彼よりも奇異だった。
店員はもはや人ではなかった。ハロウィーンと言えばジャックオーランタンの次に出てくるくらい有名な、あの布切れのおばけだったのだ。しかも、そのおばけの周りには手袋のようなものも二つ浮いている。言うなれば、手袋おばけと言ったところだろうか。
店内をよく見渡してみれば、その手袋おばけたちがあちらこちらで配膳をしている。
その様子をただ眺めているだけの私を、一匹の手袋お化けがその手袋で私をまるで邪魔者扱いするかのように払い退ける。
私は一言すいませんと口を零し、さっきまでのっぺらぼうの男性が座っていたの椅子に腰をかけた。
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