工房では静かに、ハロウィンは騒がしく

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 ウィルもそうだ。  世の闇に隠れひっそりと暮らしている怪物達の殆どがそう。たまたま、ハロウィンの日は怪物(中には、怪物達すら知らない怪物もいる)に仮装した人間が多いおかげで、自分たちも気軽に外に出れるのだが、なんで、ハロウィンの日に人間達が怪物の仮装をしているのか知っている者は殆どいない。少なくとも、知っている怪物をウィルは見たことがない。  分かっているのは、主に、英国圏での行事だってこと。  しかし、今、ウィルがいるのは、英国圏ではなかった。  日本という、小さな島国である。  日本にもハロウィンとやらは、そこそこ浸透している。しかし、やっぱりここでも、なんで人間が怪物に仮装するんだかは分からない者が多い。というか、理解してるやつなんていないだろう。  流行らせた元の国は勿論、本物の怪物達でさえ理解出来ていないのだから。  大体、英国圏といえばカトリック、キリスト教である。なんだって、そんな地域で怪物に扮装する祭りが流行るのだろう。 「わけがわからんよ」と、祖父が数百年前に愚痴っていたのを、ウィルは今でも覚えている。  時が経つのは早い。箒で空を飛ぶやつを火祭りに上げていた時代だったのが、今や鉄の塊の中に人間やら動物やらを押し込めて空を飛ぶ時代だ。  最もわけがわからないのは、この時の流れとやらかもしれない。 ――と、そんなことはどうでもよくて。  ウィルはカボチャの頭をがっくりと横に傾け、腕を組んだ。手袋に長袖である。  この中がどうなっているのかなんてことは、死んでも教えられない。  藁で、出来ているなんて誰にも教えられない。死んでも。 「狼男が裸で歩いているだけで、逮捕されるような国だ。こんな格好で歩いて行ったら、きっと蒸し焼きのパイにされるだろう」  それが、ウィルの悩みだった。その足元に転がる新聞にはでかでかと狼男の写真が貼ってあった。 『ハロウィン熱!? 狼男、逮捕される』  やたらと色とりどりで、書いてあることがやたらと過激な新聞だった。そして、その写真もどうも、狼男というより、狼の被り物をした人間っぽいのだが。  怪物仲間が逮捕されたという衝撃的事実に、ウィルはそんなことには気付かなかった。
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