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国民は日本を救った正義のヒーローに称賛を浴びせた。
猛神は思った。
これこそが自分の求めた理想だと。
これこそが自分が存在する理由だと。
そして猛神はいづれ現れるであろう次の悪に立ち向かうべく邁進した。
訓練し、鍛練し、錬磨した。
猛神は悪に恨みはなかったが、悪を滅ぼすことこそが自らの使命と信じきっていた。
しかし、待てど暮らせど次なる悪は現れなかった。
猛神は焦っていた。
最初の悪の登場から8年…肉体は歳を重ね衰える。
そして現れもしない悪の為に国民の税金を使う国防隊に、世間の当たりは日に日に強まっていた。
「わかるか?あれだけ称賛され奉り上げられた我々が、批難されることになっていった。屈辱だった。仮にも命を掛けて国民を守ったのは誰だったのだと…」
「だが普通に考えれば悪はそうそう現れない…たしかに小さな犯罪や細かな悪はある。しかしそれは警察の管轄だ。我々が求める『悪の秘密結社』なんて現れるわけがなかったんだよ。」
猛神は顔をしかめながら続けた。
「…あの時、この世の誰よりも私は悪を求めたよ。頼むから現れてくれ…再び世間を恐怖に陥れてくれ…と。」
「だがその想いは虚しく、国防隊は解散させられたよ。結局悪は現れなかったのだ。この時に改めて思ったのだ。正義のヒーローは悪がなければ存在すら出来ないのだと。悪は正義のヒーローを必要としないが、正義のヒーローは悪なくしては成り立たない…正義を名乗る為には悪が必要だなんて皮肉な話だとは思わないか?」
「だから…だから我々は自ら『悪の秘密結社』を作ることにした。正義のヒーローという存在を成り立たせるためにだ。」
「…そーゆーことだったのか。」
「しかし我々が作った悪の秘密結社が現れた時の国民の反応は素晴らしかった。待ってましたと言わんばかりだった。国民もまた我々と同様に悪の再来と正義のヒーローの復活を待ち望んでいたんだよ。」
「それが自作自演をしてまで悪を作り出した理由か…」
「そうだ…全て自作自演だよ。そうするしかなかった。小笠原と二人で研究と実験を繰り返して、マザーからの遺伝子を使っての人から怪人への変身方法も確立した。秘密裏に人材を集めて秘密結社を完成させた。全てはヒーロー時代の再来のためだった。」
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