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意図の読めない告白から数日経っても、毎日、いつもと同じ場所に大輝は現れて、嬉しそうに話し掛けてくる。
騙すつもりにしては、長期化し過ぎな気がする…
美桜は、仕事しながら、大輝のことを思い出す。
そして、深いため息をつく。
「あ、水島。ちょっといいか?」
職場での良き理解者の部長が話し掛けて来た。
美桜「あ、はい」
部長の後について行くと、誰もいない会議室に通された。
部長「まぁ、座ってくれ」
美桜「はい」
部長「実は、今度のプロジェクトのことなんだが…」
美桜「あぁ、大がかりになりそうですよね、立花物産との契約」
部長「そうなんだ。
それで、君に、手伝ってもらいたいと思ってる」
美桜「もちろんです。
私に出来ることがあるなら、影ながら…」
部長「いや、影ながらではなく、主要メンバーとして、なんだ」
美桜「え…?」
部長「お子さんもまだ小さいし、手が掛かることも承知なんだが、どうだろうか?
幸い、この会社の中には、託児室もある。
お母さんの協力も得て、なんとかお願い出来ないかな?」
美桜「……」
部長「そうだよな、すぐには決められないよな」
美桜「なんで、私なんですか?」
部長は、美桜をまっすぐに見つめる。
部長「ずっと、もったいないって思ってたんだ」
美桜「もったいない?」
部長「結婚前の君は、仕事をバリバリとこなし、下の子の指導も的確だった。
何より、君のセンスに惹かれていたんだ」
美桜「部長…」
部長「少しでも、迷う気持ちがあるなら、考えてみて欲しい。
ご家庭の面は、出来る限り、協力させてもらうから」
美桜「でも、今の私には、みんなとの信頼関係がありませんから、多分…」
部長「だから、チャンスなんだ。
君が、みんなと関わる時間がないくらい頑張ってるのは知ってる。でも、これを通して、みんなと信頼関係を築けると思うんだ」
美桜「……立花物産との契約が終わるまでですよね」
部長「とりあえずはね」
にっこりと微笑む部長とは、裏腹に、美桜は肩を落としながら、会議室を後にした。
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