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≪side 湖々海≫
「夜の研修?」
ランチタイムの、女子の噂話。
「そう、課長が手取り足とり、教えてくれるんですって」
意味深に笑う先輩達に首を傾げながらも考える。
女子限定だというその研修。だれでも受けられるのかな。
タイピングの速さには自信があるけれど、漢字の変換や言い回しのミスがある。
書類をただ写すだけではなくて、誤ったところを訂正しながら入力しないといけないのに。
わたしはそれが苦手だ。
まだ20代後半の若さで、課長職についてる青山さん。
整った顔によく似合う、スクエア型のシルバーの眼鏡。
必要以上に話さない、少し無愛想な感じがクールに見える。
でも。
「青山さん、どうぞ」
いつも飲むブラック珈琲のマグカップを差し出すと、
「ああ。すまないな渡瀬、ありがとう」
ちゃんとわたしの瞳を見てお礼を言ってくれる。
もっと彼の役に立ちたいな。
だからこそ、研修を受けたかった。
少しでも傍にいられるかもしれないから。
そんな下心があったのは、事実だった。
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