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≪side 湖々海≫
青山さんの頬を叩いた後、泣き顔を見られたくなくて。
逃げようとした途端、腕を彼に取られてしまった。
「イヤッ。離して!」
暴れるわたしを、簡単に抑えて壁に身体を押しつける。
華奢に見えても。
彼が男性である事を、思い知らされ、鼓動が跳ねる。
「泣いているのか・・・」
驚いた様子の彼が、わたしの頬を確かめるように撫でて。
親指で零れた雫を、拭った。
空いた手を壁に付き、その腕の中にわたしを閉じ込める。
青山さんの綺麗な顔が、すぐ傍まで迫ってきて。
「何故泣く。君も噂を信じていたんじゃないのか?」
低く響く声と、彼の香水のほのかな香り。
眼鏡の無い彼の顔に、いつもは見られない焦りの色が浮かんでいた。
「噂って・・・時間外研修?」
彼の瞳に吸い寄せられるように見つめながら、問いかける。
「そう。俺にこういう事をされるって、噂」
甘く囁くくちびるが、そっとわたしの口を塞ぐ。
弾力のあるくちびるをそのままに。
「深夜のオフィスで俺に抱かれる・・・噂だ」
苦しげに呟いた。
ん?何その噂。
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