ハルの訪れ

春が訪れた

『ねぇ、知ってる？』

『あの話でしょ』

『全くドアくらい閉めてすれば良いのにね』

『ホントにね。凄い声らしいじゃん』

『まだ私、遭遇したことない』

客室清掃係の控室では終日、この話題で持ちきりだった。

シティーホテルとはいえ、今の世の中単なるホテルだけでは経営が難しい。

そこでラブホテルよりも高級感がある、このシティーホテルも時間貸しの部屋を設けることになった。

主な客層は中高年。

不倫カップルや訳ありカップル。
援助交際じゃないか？と疑ってしまうような年齢差のカップルもいる。

ラブホテルのような使われ方ではないけど、一般の宿泊客に比べたら、使用後の室内はキレイとはいいがたい。

今話題に上がっているのは、チップを多く置いていく客の話。

上層階を希望し、誰もいない階を好む客。

客はいないけど、私たち清掃スタッフがいる事をその客は知らないのだろう。