その咲きの向こうへ

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 その通りだ。  僕には関係の無い事なんだ。  例え今目の前で、「僕が念じたから教師が消えた」と僕自身が皆に告白しても、そして、それを信じる者が現れても、僕を裁く法律は無い。  僕は誰にも裁かれない。  確固たる証拠は何処にも無いのだから。  それに、この心に重く圧し掛かる重責という不愉快な気分も、幼い頃から刷り込まれていた道徳と言う人が勝手に作った聞こえの良い定義に僕自身が捕らわれているからだろう。  そう思うと、全てが煩わしくなって来る。  朝、満員電車内で初老の男性を消してからずっとだ。  学校に来るまで苦痛で、授業中は心の整理に困難で、今この僕を取り巻く喧騒が面倒だ。  いや、最初からそうだった。  苦痛で始まり、困難に見舞われ、面倒に追い立てられる。  『もう、みんな、人類全て消えてしまえば良いのに』  軽いはずみで脳に想い描いた人類への呪詛は、完全なる静寂を僕に齎せた。  いや、無音と言う訳ではないのだが、今まで散々、喧々囂々と喚き散らかしてた周囲の人間が消えたので、そう僕に感じさせたのだろう。  背中にとても嫌な汗を掻いた事を記憶してる。  ゆっくり見渡すと、大騒ぎしてたクラスメイトや、その騒ぎを聞きつけやってきた他の先生も、もうそこには存在しなかったんだ。
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