その咲きの向こうへ

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 玄関の前に立ち、これから味わわなければならない残酷な現実に、ドアを開ける手がとても重たく、そして、震えた。 「ただいま!母さん!居ないの!?」  解ってはいたものの、やはり帰ってくる訳の無い返事に僕は頭を抱えた。  一番最後の会話はなんだっただろう?僕はこれと言って親を尊敬するような人間では無い。  どちらかと言えば疎い存在だと思っていた。  自分の理想を子供に託し、自分が出来ない事を子供に押し付ける、典型的な体裁を保つだけのどうしようもない家族だと認識していたからだ。  それでも、それでもやはりもう会えないと言う現実は心に何か大きな穴を空けるような気分がしてならない。  きっとこれは僕が親に頼ってきた証拠なんだろう。  なんだかんだと文句を言いながらも、心の奥の何処かで「親なんだから面倒見ろよ」とか「親の教育が悪いから子供が立派に育たないんだ」とか何かしらを親のせい、親に頼って理由付けしてきたからだ。  解ってはいた。  最初から解ってはいた事なんだ。  今更過ぎる。  僕は知っていたんだ。  人間は生まれて絶対的に孤独であると言う事を。  でもその孤独を埋め合わそうと、家族や恋人や友達を作りコミュニティの中で自分に足りない部分を補填してきたんだ。  けど、今はもうそれが出来ない。  何がどうなって居るのか、まずそれを整理しなければ。
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