その咲きの向こうへ

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 愛が全てを救ってしまう感動の物語や、ヒーローが出てくる勧善懲悪の漫画やアニメではなく、切羽詰ったこの極限の精神状態で、本当に不思議だと思うのだが、何とか生き残らなければとずっと思っていたのだ。  その瞬間を通り過ぎた今だから言える事なのかもしれないが、楽に死ねる方法を考える方が精神的には負担は少なく、短絡的で、常に最悪を想定する僕らしかったのではないかと思う。  でも、そうしなかった。  もうゴールは見えている状況で、言うなれば、恋愛物で言う最初は喧嘩をして次第に仲良くなるのだが、何らかのトラブルで喧嘩をしてしまった後の仲直りする瞬間。  もっと解りやすく言えば、ヒーロー物で、絶体絶命の状況から主人公達に別の力が宿ったりして容姿が変わった瞬間。  もう、結果は見えている。  「はいはい、解りました」と観る気を無くす要因に十分匹敵するこの状況で、僕は僕の人生を投げ出さなかった。  何が切欠で突然人が変わってしまうのかなんて本当に解らないものだ。  実際の所、投げ出す勇気が無かっただけなのかも知れないけどね。  兎に角、僕は立ち上がり、キッチンに向かい、おもむろに冷蔵庫を開けて中身を全部出した。  カジノでチップを大量に勝ち取った人が良くやるような、大きく片手で奥の方からガバっと、すべて手前にすくい引きずる様に冷蔵庫の中身をガラガラと外に出し、ゴミ袋に詰め込んで外のゴミ収集所に捨ててきた。
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