その咲きの向こうへ

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 高校二年の秋の事。  毎日通学の為に満員電車に閉じ込められて、外からの世界を遮断するように顔には風邪対策と言う名目で一年中マスクを付けて、イヤホンで耳を塞ぎ、目を瞑ってつり革に捕まり耐えていた。  これが僕の日常であり、繰り返される平日と言う処罰の始まりなのだ。  高校に進学してから二年の秋まで繰り返されてきた平日の風景。  目を瞑ると人間は他の感覚が敏感になる。  視覚は瞼で遮られ、味覚と触覚には取り立てて問題は無い。  いや、触覚に関しては満員と言う事もあり、少しばかり窮屈だと感じるが、何かが同じ箇所にぶつかり痛みを感じている事や足を踏まれていたりと、身体的に痛覚に訴えかける物があまり無いのでこれは言うほど嫌悪する程の事では無い。  聴覚はイヤホンから僕の好きな世界に旅立っているのでこれも問題無し。  問題は嗅覚だ。  マスク越しにでも煙草とコーヒーの混ざった悪臭と、目下男子のオシャレと言う物が社会的に何の変哲も無く認められて様々な商品が売られている中、何故それを選ばなければならなかったのかと問い質したくなるポマードの香り。  これが僕を襲う。
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