その咲きの向こうへ

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 僕は机の上に置かれた教科書から視線を外し、正面、教卓の前で教科書を読み上げる教師を少し強めに睨みつける。  そして、心で念じてみたんだ。  『消えろ!』  教室中に響き渡っていた教師の音読の声がピタリと止まり、瞬きするような瞬間の静寂が僕のクラスに訪れて、次の瞬間、その静寂を突き破る悲鳴と動揺の声が入り混じり、教室内はパニックに陥った。  『出てこい!』  僕は次の瞬間、必死にそう思った。  いや、願ったと言っても良い。  消えた教師は出てこない。  『出てこい!!』  教室内の個々のざわつきは、マッチで練炭に火をつけるかのように、簡単に燃え上がり、熱を持つような騒ぎに発展していく。  消えた教師は出てこない。  『出てこいってば!!』  騒ぎを聞きつけ、他のクラスからも教師や生徒が僕の教室にやってきて、側にいる生徒から事情を聞きだす始末。  もう、収集はつかない。  僕が念じた事によって目の前に居た教師は消えた。  そしてそれは第三者である僕のクラスメイト達によって完全に確証され、僕が人を消したと言う重責を僕に与えてくれた。  そう、教師は消えた。  確実に居なくなった。  偶然か必然か、それは僕が『消えろ』と念じた瞬間に。  そして、もう出てこない。  存在しない存在になってしまった。  消えてしまった人間は何処に行くのか、その存在が確認の取れない状況であるならば、それは死と言う概念に相当するのではないのだろうか?少なからず、その存在の痕跡を絶った原因を作ったかもしれない僕は差し詰め殺人未遂犯の容疑者と言った所か。  でも、証拠が無い。  僕の頭の中は誰にも調べる事が出来ない。  冷静に考えれば容疑も何もあった物では無い。
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