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せっかくだから、ガキのころの自分を、少し堪能してみたくなった。
机の引き出しを開ける。定規や色鉛筆などのほかに、玩具なんかも入っている。アナログ式の、携帯ゲーム。手のひらサイズのパチンコのような玩具。
とりあえず、やってみる。たいして、面白いもんでもないが、懐かしい。
すると、突然……部屋のドアが開いた。
「何やってるの、泰文。学校遅れるわよ」
声とほぼ同時に、母親が現れた。案の定、小学生のころの年齢の母親だった。
ーうわ、若っ!?ー
現在の自分と同じくらいの年齢だと思う。
病院にいる、年老いた母の姿がオーバーラップする。まるで、様子が違う。弱々しい、母のイメージはなく、溌剌と毎日を生きている……そんな感じ。
目頭が熱くなり、涙が溢れてくる。
「母さん!」
たまらず、その懐にすがる自分。
あのころの母に会えた悦びが、全身を駆け巡る。
夢だというのは分かっている……現実はもっと荒んでいるということも……あまりに、都合のいい夢を見ているのだということも……。
「ゴメンよ、母さん……まだ、死なないでくれ」
「ちょっと、どうしたのよ、いきなり……おかしな子ねえ……」
自分の背中を、優しくさする母。
「怖い夢でも、見たの?」
「……」
「おまえを置いて、お母さん死ぬわけないでしょ」
その言葉が、深く胸に突き刺さる。
あまりに遠い過去。このころは、そう思った。
母は自分が生きているかぎり、永遠に存在し続ける……そう思っていた。
「いつまで、甘えてるの? 早く仕度して、学校行きなさい」
軽く背中を叩く母。その感触に、気持ちが落ち着いていく。
「今日、授業参観でしょ……学校で、おかしなこと言わないでよ、お母さん恥ずかしいから……」
自分から離れ、部屋を出ていく母。
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