ありえぬ郷愁

5/6
前へ
/43ページ
次へ
 壁の時計を見ると、八時を過ぎている。  急いで食卓につき、トーストにバターをぬり、かぶりつく。それを、コーヒーで流し込む。  サラダも、かきこむように食べる。とにかく、時間がない。  ランドセルを背負って、バタバタと玄関へ。  しかし、この歳になって、またこんなもの背負う羽目になるとは……複雑な心境だ。  朝食もそうだが、しっかり味もしているし、夢にしては、リアルすぎる。  あの扉の絵の、向こう側の世界なのか……?  それとも、仮想現実……だとすると、だれが、いったい、なんのために……その疑問が解決されないと、どうしようもない。  第一、自分の小学生時代の個人情報を、ここまで正確に再現できる人物はいないはず。  しいて言うならば、自分だが……こんなシステムをプログラムした記憶はない。  玄関の近くには、これも博物館に展示されているような、ダイヤル式の黒電話がある。  たぶん、ほかの電化製品なんかも旧式だろうが、 のんびり見ている時間がない。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加